Digital Curation Lab - デジタル・キュレーション・ラボ

海外のデジタル・メディア・イノベーション、ソーシャルメディア・トレンドの中から「面白い」「これ大事」と思えることを共有してみたいと思います☺

メディアの今後を語る際のリトマス試験紙としてのバズフィード

 海外のデジタル・メディア論壇界隈の議論を見ているとその層の厚さに驚くことがあります。またそうしたやりとりの中で大きなトレンドがどのように業界で捉えられているかを知ることができます。


ニュースサイト「ギガオム」のライターであるマシュー・イングラム氏は『ニューヨーク・タイムズに対するニュース速報:あなたたちとバズフィードはそれほど変わらない』と題した記事で、昨年秋にニューヨーク・タイムズのアシスタント・マネージング・エディターに着任したばかりで、しかも今話題の読者開発(Audience Development)チーム23名を率いるAlexandra MacCallum氏による長文のインタビュー記事での発言を疑問視して警鈴を鳴らしています。例えば以下のような発言にMacCallum氏がどのようにバズフィードを捉えているかが映し出されています。
 

『The whole mission of BuzzFeed is to get people to share,” she said. “That is not the mission of The New York Times. The mission of The New York Times is about the best journalism in the world and giving people accurate, timely information. I don’t think that BuzzFeed is competing in that space. 
(彼女曰く、『バズフィードのミッションは記事を読んだ人にシェアをさせることです。それはニューヨーク・タイムズのミッションとは異なります。ニューヨーク・タイムズのミッションは世界最高のジャーナリズムを通じて正確でタイムリーな情報を提供することです。バズフィードはその分野において私たちの競合ではありません)』

引用:Inside the NY Times' audience development strategy - Digiday (1/14/2015)


News flash for the NYT: You and BuzzFeed aren’t that different — Tech News and Analysis

バズフィードはよくネコの画像や注目を惹くリスト形式の記事で若い世代に広く拡散されるバイラルメディアとして知られますが、一方で1年前には約300人ほどだったスタッフはいまやピューリッツァー賞受賞記者含むベテラン記者含め約1,000名の規模に拡大し、シリアやウクライナなどの紛争地を含む20カ国に100人以上の記者を擁し、 時価総額も1,000億円規模に成長している注目ニュース・エンターテイメントサイトです。

MacCallum氏は現在30代前半、実はハフィントン・ポスト創業時に参画しオンラインニュースサイトの経験も豊富に持っていて、ニューヨーク・タイムズには2年ほど前に転職、その後ビジネス面での事業プロデュースの業務に従事、クッキングアプリのリリースに携わるなど既に実績を持っている人物です。本来ならばデジタルメディア、ソーシャルメディアを活用した取り組みを積極的に推進することを期待されている立場のはずです。

もちろん150年以上の歴史のあるニューヨーク・タイムズにおいて各部門への配慮から上記のような発言がなされているのかもしれません。インタビューの中でもTwitter やFacebookを活用してソーシャルメディアでシェアされることを通じて記事をより多くの人に届けるよりは、15名のスタッフを配置してSEOアンバサダーとしてSEO対策に力を入れているなどの具体的な取り組みが紹介されています。

イングラム氏は、ニューヨークタイムズで2014年に読まれた記事が必ずしも全て真剣な社会課題を扱った調査報道記事だけではなく、スポーツ、社会、芸能ニュースをも含まれていることを指摘し、「ニューヨーク・タイムズとバズフィードがそれほど異なるものではないです」とも述べています。

文中、ニューヨーク大学教授であるジェイ・ローゼン氏のコメントを引用しながら、以下のような点を指摘しています。

『バズフィードに対してどのような発言をするかによってメディア業界の人たち(がどんな考え方をしているか)について多くを学ぶことが出来る』

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上記はウェブアクセス解析サービス「Similarweb」によるNew York TimesとBuzzFeedとの比較。こうして見ると、バズフィードの流入はソーシャルメディア経由が多く、ニューヨーク・タイムズがサイトへの直接の訪問、或いは検索中心であることが分かります。あくまで目安ではあるものの、月間訪問者数においても既にバズフィードのほうが優っていることが分かります。

海外(主に米国)でのデジタルメディア、ジャーナリズムの行方を占う際、こうした議論が毎日のようにやりとりされている状況があり、そんな中から次々とイノベーション、成功・失敗事例を作り出し、新しいメデイアのあり方が創りだされるように思います。

こうしたやりとりは純粋に刺激的であり、学ぶべき点も多くあるとと思ってます。ただこうした現場の声、議論が言語の問題もあり日本にタイムリーに伝わらないことはとてももったいないのでは、と最近強く思います。そんな背景もあり、今後こうしたテーマについて、日々少しずつでも今回のようにレポートすることで、そのギャップを埋めていきたいと思ってます。どうぞお付き合い頂ければ幸いです。